主要論文の概説  Selected Papers


1

A Grb2 associating protein (Gasp) is critical for positive selection of thymocytes
Michael S. Patrick, et al.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA
(2009) in press

    
胸腺に特異的に発現している機能未知の新規遺伝子Gaspを初めて同定した。Gasp遺伝子のノックアウトマウスを作製、解析することにより、Gaspが胸腺内での正の選択に必須であること、負の選択を含む、それ以外のTCR依存性シグナルイベントには必要ないことを明らかにした。さらに、GaspがGrb2と構成的に結合していることを示し、正の選択に特異的なシグナル伝達を担っている可能性を示唆した。

 


 
2

PI3K and Btk differentially regulate B cell antigen receptor-mediated signal transduction
Harumi Suzuki
, et al.
Nature Immunol.
(2003) 4: 280-286.

     
B細胞受容体刺激によるBtkの活性化および膜移行はPI3Kに依存するとこれまで考えられていたが、PI3キナーゼノックアウトマウスのB細胞を用い、Btkの活性化がPI3Kに依存しないという予想に反する事実を明らかにした。また、Btkノックアウトマウス、Bcl-xLトランスジェニックマウスとの交配実験や生化学的な解析により、PI3KはBtkの活性化ではなく、Aktおよびその下流因子であるNF-kB、Bcl-xLを介した抗アポトーシス応答に重要であることを明らかにした。

 


3

Xid-like immunodeficiency in mice with disruption of the p85a subunit of phosphoinositide 3- kinase
Harumi Suzuki, et al.
Science (1999) 283. 390-392.

PI3キナーゼのp85α調節サブユニットをノックアウトしたマウスを作成し、その免疫系における表現型を検討したところ、末梢の成熟B細胞数の減少、成熟B細胞の機能の異常、骨髄中のproBからpreB細胞への分化の抑制、TI-II型抗原に対する抗体産生の減少、腹腔内のB-1細胞の減少などの異常が見られた。これらの表現系はXidマウス(Btkノックアウトマウス)の表現型と非常に類似しており、PI3キナーゼとBtkのシグナル伝達における関連性を示唆するものと考えられた。(被引用回数208回)

 


4

Commitment of immature CD4+8+ thymocytes to the CD4 lineage requires CD3 signaling but does not require expression of clonotypic T cell receptor (TCR) chains.
Harumi Suzuki, et al.
J. Exp. Med. (1997) 186. 17-23.  

独自に開発したcoreceptor reexpresion assayを利用して、TCRαノックアウトマウス、および抗CD3抗体を投与したRAGノックアウトマウスのDP細胞においてもCD4系列への運命決定は起こるが、放射線照射によって誘導されたRAGノックアウトマウスのDP細胞では起こらないことを示した。従って、defaultで起こるDP細胞のCD4系列への運命決定はTCRαβ鎖には依存しないが、CD3鎖からの刺激は必要であることを明らかにした。

 


5

Asymmetric signaling requirements for thymocyte commitment to the CD4+ versus CD8+ T cell lineage: a new perspective on lineage commitment and positive selection.
Harumi Suzuki, et al.
Immunity (1995) 2, 413-425.

CD4・8系列へのコミットメント(運命決定)の機構については長い間の論争があったが、運命決定を単一細胞レベルで検定する新規のアッセイ系(coreceptor reexpression assay)を独自に開発し、CD4・8系列の運命決定機構がCD4とCD8で全く異なること(非対称コミットメントモデル)を提唱した。また、CD4へ分化する途中であると考えられていたCD4hiCD8loという表現型の細胞集団のなかにはCD8系列へコミットした細胞も存在することを同時に明らかにした。最近の論文でもいまだに引用されており、代表的な論文の一つとなっている。(被引用回数145回)

 


6

Positive selection of CD4+ T cells by TCR ligation without aggregation even in the absence of MHC
Yousuke Takahama*, Harum Suzuki*, et al.
*[Both authors contributed equally to this work]

Nature (1994) 371, 67-70.

クラスIIノックアウトマウスの胎児胸腺器官培養系において、抗T細胞受容体(TCR)抗体によるTCRのクロスリンクによってCD4陽性T細胞の分化が誘導されることを初めて明らかにした。さらにTCRの架橋度を強くするとこの胸腺何での正の選択が起こらなくなることを示し、利根川らによって証明された未熟胸腺細胞の選択におけるアビディティモデルを一歩進め、TCRの凝集度が胸腺内での正、負の選択に重要であることを初めて明らかにした。(被引用回数60回)。

 


7

The origin of a T cell clone with a mismatched combination of MHC restriction and coreceptor expression
Harumi Suzuki, et al.
J. Immunol. (1994) 153, 4496-4507.

通常、CD8陽性T細胞はクラスI分子を認識し、CD4陽性T細胞はクラスII分子を認識するが、CD8キラーの中にはアロクラスII抗原を認識する(ミスマッチ)クローンが少なからず存在する。このようなミスマッチクローンの分化は現行のドグマでは説明できず、その分化発生の機構を解明するためにミスマッチクローンのTCR遺伝子をクローニングし、TCRトランスジェニックマウスを作成した。その結果、ミスマッチクローンは実はクラスI分子によって正の選択を受けていたことを明らかにした。