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注目論文

自己免疫疾患の病態形成メカニズムの解明 – 自己免疫疾患の新規治療法の開発へ向けて -

2014年9月29日

研究の背景

免疫システムの異常が病態に寄与する自己免疫疾患においては、長期治療による経済的負担とステロイドの副作用等による生活の質の低下が深刻な問題となっており、新たな治療法の開発は急務です。自己免疫疾患の病態をコントロールするためには、病態を形成するメカニズムを詳細に理解することが重要です。自己免疫疾患の中でも、全身性エリテマトーデス(SLE)や炎症性腸疾患は、有効な治療薬がなく、また患者数が多い疾患であり、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患です。

本研究の概要・意義

今回、独立行政法人 国立国際医療研究センター研究所、分子炎症制御プロジェクトチームの反町典子プロジェクト長および小林俊彦副プロジェクト長らは、自己免疫疾患の病態形成の新たなメカニズムを解明しました。

代表的な自己免疫疾患の一つであるSLEにおいては、免疫細胞の一種であるB細胞が、自分自身を攻撃してしまう自己抗体と呼ばれるタンパク質を作り、それが様々な臓器を攻撃し、傷害を引き起こします。B細胞が自己抗体を作るまでの第一段階は、まずB細胞の内部に存在するリソソームと呼ばれる小さな袋状の構造の中で、Toll様受容体 (Toll like receptor 7; TLR7)と呼ばれるタンパク質が、病原体や壊れた自分の細胞に由来する物質を感知して、I型インターフェロンを産生します。I型インターフェロン (IFN-I)がひとたび産生されると、細胞はIFN-Iを感知してさらに大量にIFN-Iを産生し、それが引き金となって自己抗体を産生するようになります。

プロジェクトチームは、TLR7が働く場所であるリソソームと呼ばれる細胞内の構造に着目しました。リソソームは本来細胞の中に入ってきた病原体や、古くなった自分の細胞を分解するゴミ処理場としての役目を果たしています。そのようなリソソームで、TLR7がIFN-I産生を引き起こし、B細胞が自己抗体を産生するようになるためには、B細胞のリソソームに特別な仕組みが備わっていると考えました。その仕組みを詳しく解析した結果、リソソームに存在するSLC15A4というタンパク質がIFN-I産生と自己抗体産生に重要な役割を果たしていることを発見しました。

SLC15A4というタンパク質を欠損させたマウスでは、リソソームにおいてTLR7が病原体や壊れた自分の細胞に由来する物質を感知してもIFN-I産生が起こらず、B細胞による自己抗体の産生も抑制されていました。さらにそのメカニズムとして、SLC15A4がリソソームからプロトンと特定のアミノ酸をくみ出すことによって、TLR7の機能に最適なリソソーム内環境を造りだし、自己抗体産生を引き起こすお膳立てをしていることを明らかにしました。SLC15A4を欠損するマウスでは、この仕組みが働かないために自己免疫疾患の病態が改善したと考えられます。(モデル図)

本研究成果により、SLC15A4というタンパク質がSLEや炎症性腸疾患の新しい創薬標的となり得ることが示されました。

モデル図1

20140929_05

今後の展望

本研究成果は、SLC15A4というタンパク質の機能を阻害することにより、自己抗体の産生が抑えられ、自己免疫疾患の病態が改善されることを示しています。SLC15A4というタンパク質の機能を抑える薬剤が見つかれば、全身性エリテマトーデスや炎症性腸疾患の新しい治療法開発につながると期待されます。

発表雑誌

雑誌名:Immunity

著者・論文名:Kobayashi T et al. The histidine transporter SLC15A4 coordinates mTOR-dependent inflammatory responses and pathogenic antibody production.

掲載日:米国東部部標準時間9月18日正午12時(日本時間9月19日午後1時)に掲載予定。

参照URL

http://www.cell.com/immunity/abstract/S1074-7613%2814%2900305-7
または
http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2014.08.011 (Science Direct)

《本件に関するお問合せ先》

国立国際医療研究センター研究所 分子炎症制御プロジェクト
責任著者役職名 プロジェクト長  反町 典子(そりまち のりこ)
電話:03-3202-7181(内線 2824) FAX:03-3202-7364
E-mail:nsorima@ri.ncgm.go.jp
〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1

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