トピック・関連情報の画像

ホーム > トピック・関連情報 > 脂肪細胞分化におけるリン脂質リモデリング(LPCAT3)の関与の可能性

脂質シグナリングプロジェクト
衛藤 樹

脂質シグナリングプロジェクトでは、生体膜合成酵素であるリゾリン脂質アシル基転移酵素群を主なターゲットに脂質代謝の研究を行っております。すべての細胞はリン脂質でできた細胞膜で囲まれています。リン脂質は壁としての役割だけでなく細胞の形態維持、シグナル伝達、メディエーター産生などさまざまな重要な機能を持っています。リン脂質はまずグリセロール-3-リン酸(G3P)からde novo 経路(別名Kennedy pathway)で合成されます。合成されたリン脂質はその後remodeling 経路(別名 Lands' cycle)を通して再構築されます。

リン脂質リモデリング(LPCAT3)の関与の可能性1

研究室が研究しているリゾリン脂質アシル基転移酵素はこのLands' cycleで働く酵素です。Lands' cycleが存在することにより、個々の細胞に特異的なリン脂質の脂肪酸組成の多様性が生まれていると考えられています。Lands' cycleの存在は50年ほど前から提唱されていたものの、実際にリゾリン脂質アシル基転移酵素がクローニングされたのは近年になってからです。現在約10種類の酵素が見つかっていますが、まだ詳細な機能は不明点が多いです。

今回はリゾリン脂質アシル基転移酵素のうちの一つであるlysophosphatidylcholine acyltransferase 3(LPCAT3)と脂肪細胞分化の関係について調べました。LPCAT3はLPCAT, lysophosphatidylethanolamine acyltransferase (LPEAT), lysophosphatidylserine acyltransferase (LPSAT) 活性をもつ酵素であり、特に18:2-CoAと20:4-CoAに対して強く活性を示すことがわかっています。

マウス間葉系細胞株のC3H10T1/2細胞はinsulin, 3-isobutyl-1-methylxanthine (IBMX), dexamethasone, pioglitazoneなどの試薬により脂肪細胞に分化することが知られています。この細胞を脂肪細胞分化のモデルとして用い、分化過程でさまざまなリゾリン脂質アシル基転移酵素の発現を調べたところ、LPCAT3のmRNAが分化とともに誘導されることがわかりました。他のリゾリン脂質アシル基転移酵素の発現も調べましたがこのように誘導される酵素はありませんでした。

リン脂質リモデリング(LPCAT3)の関与の可能性2

次に脂肪細胞の分化前後におけるリゾリン脂質アシル基転移酵素活性をLC/MSを用いて測定してみました。16:0-CoA, 18:1-CoA, 18:2-CoA, 20:4-CoA, 22:6-CoAの5種類のアシル-CoAを基質として使用したところ、LPCAT, LPEAT, LPSAT活性が脂肪細胞分化過程で上昇しているのがわかりました。特にLPCAT3が強く認識する18:2-CoAと20:4-CoAで大きな上昇が観察され、この活性の上昇はLPCAT3によるものである可能性が考えられます。

さらに脂肪細胞の分化前後でのPC, PE, PSの脂肪酸組成を調べてみました。いくつかの種類の脂質が変化していましたが、そのうちの一つとして、アラキドン酸(20:4)を含むリン脂質の割合の上昇が見られました。直接的な証明はできませんが、このリン脂質はLPCAT3の活性によって作られたものである可能性が考えられます。

以上の結果よりLPCAT3は脂肪細胞分化過程でアラキドン酸をリン脂質に取り込む主要な酵素である可能性が推測されます。アラキドン酸を含むリン脂質からアラキドン酸が切り出され、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの脂質メディエーターが産生されます。これらの脂質メディエーターの一部は脂肪細胞分化を促進することが知られています。今回の実験結果から、LPCAT3がこれらの脂質メディエーターの産生に関与しており、脂肪細胞の分化に機能を果たしている一つの可能性が示されました。今後の実験で実際にどのような重要性があるのか調べていきたいと思います。

リン脂質リモデリング(LPCAT3)の関与の可能性3

以上はEto et al. Lysophosphatidylcholine Acyltransferase 3 Is the Key Enzyme for Incorporating Arachidonic Acid into Glycerophospholipids during Adipocyte Differentiation, International Journal of Molecular Science, 2012に受理されました。

トピック・関連情報
国立国際医療研究センター
CASTB
シスチノーチの広場
ページの先頭へ戻る