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明けましておめでとう。2006年がすべての人に良い年になりますよう、心からお祈り申し上げます。

今年もたくさんの年賀状を頂き有り難うございました。それぞれの人の静かな決意が伝わってきて、私も心を新たに今年の抱負を考えてみます。例年のごとく教室員にはメールで年賀状に代えています。今年は年賀状に家族の一員としてのイヌの写真が多くて、実に多くの愛犬家がいるのだな、と思いました。来年は猪、年男、つまり還暦ということになります。いやはや。幸い、体力と研究の意欲は少しも衰えていませんので、今年も良い仕事をしたいと思います。また、合間を上手に使って、テニス、低山徘徊、ドライブ、孫との楽しい時間を送りたいと思っています。正月の休みは短時間でしたが、辻井喬、高村薫の小説を読みふけりました。それにしても、「マークスの山」を書いた作家と、「新リヤ王」や「晴子情歌」の著者が同じ人物とは!彼女は時代の流れを一番敏感に察知し、主張している人かもしれないと難解な本を読みながら感じました。

変化する研究室:
 この1年は教室にとっても大きな節目の年となりました。なんと言ってもラボの引っ越し、およそ2ヶ月間、スタッフを中心にまた、日曜日も返上して、新しい研究室が設営できました。30人を超える研究室の引っ越しは、一生のうちそんなに滅多に経験出来るものではありません。プラス思考をとるのなら、本当に良い経験をしたと考えるべきでしょう。幸い、新しい研究室もそれなりの落ち着きを示してきました。コールドルームを作らずにマウス室を作ったのは究極の賭でしたが、今のところ成功だったと思っています。また、4月には魚住君、10月には谷口君がラボを去り、新年の2月には横溝君が新天地に移ります。口癖の様に、「この研究室は仮の宿、皆は旅人」と言ってきましたが、こうして人が変わっていくのは研究社会の常だし、そこに一時的な苦難と新しい活気が生まれます。私が東大へ来てからもう20年となりますが、この間に実に多くの人が旅立ち、新しい場所で活躍しています。短期のFQの学生も含めると100名を超えるでしょうか。幸い、北君、進藤君が大きく成長し、そして4月から新しい助教授が加わり、ラボはまた活気を持続して行くでしょう。

危険な社会状況の中で:
 世の中は危険な「劇場型社会」になっている様に思えます。テレビが席捲する社会では、言葉の深さより、簡明さが受けます。「改革」「抵抗勢力」「小さな政府」「痛みを分かち合う」「官より民へ」「増税の前に経費削減を=公務員を減らせ」などなど。そして研究者に対しても「税金を使うのだから、社会還元される研究を」。個々についての意見は申しませんが、簡単なフレーズには危険が伴います。人々がものを深く考えているというより、雰囲気に流されている社会は危険です。私は学生時代は改革の騎手を気取っていましたが、今はもっとも保守的に映るかもしれません。皆が声を揃えると反対したくなり、反対すら言えない状況になると本能的に不安を抱えるのです。一種のあまのじゃくですが、ファシズムは独裁者が力で押しつけたのではなく、常に民衆が喝采し、支持したのだということを肝に銘じているからです。去年の暮れに野依さん達ノーベル賞学者が声を上げて、第三次科学技術基本計画を訂正したのはこの意味では、科学者の良心が「鶴の一声」に反論した見事な勇気でした。

勉強と討論の足りない学生:
 昨年感じたことの一つに、UCSDの学生達の優秀さをあげたいと思います。ギャラリーにも書きましたので、繰り返しとなりますが、彼らは学生時代(学部、博士課程)に猛烈に勉強をしています。自分の研究はもとより、生物学全般に関して幅広く、奥深い知識を持っています。また、人の研究に対して好奇心を持ち、質問しようとする積極的なコミュニケーション術を持っています。我々の教室では昨年も多くの論文が出、また、学振研究員にも4名が採用されるなど、外見的にはそれなりの研究成果はあげています。しかし、自分の研究内容について、最も知っているべき本人の知識が浅く、また、周辺部位にはほとんど興味を示していない、あるいは考えていない学生が多いのも事実です(何人かには直接怒りましたが)。良く実験をし、また、同じくらい良く勉強するのは大学院生として当然のことのはずです。改めて教科書を良く読むこと、一日3編の英文原著を読むことを強調したいと思います。また、しゃべらないのが人徳では決して無く、しつこく人の発表に介入する必要があります。今のままでは皆、研究社会では通用しない、今からでも遅くないので、実験の合間に必死に勉強し、かつ、コミュニケーションの活発化を図るべきです。

さて、今年の抱負:
 最後に今年の抱負を言います。脂質研究では「受容体研究の新しい展開」、そして「酵素学の復活」がキーワードです。GPCRの研究は色々細かい事はたくさんあるけど、大きな発想の転換が必要だと思っています。GPCR研究の一番本質的なこと、未開拓の事は何か、一緒に考えて行きたいと思います。また、酵素についてはマウスの表現型の解析から、より生化学へ回帰したいと思います。地図を作っていく仕事、代謝調節の研究、これらの「古典的研究」が今、一番脂質メディエーター研究で最もホットな課題だと思います。メタボローム講座との協力が出来るという恵まれた環境を活かし、また、4月から共通機器として登場する世界でもトップレベルの二光子励起を使って、独創的な脂質研究を切り開いていきたいと思っています。脂質メディエーターから脂質生物学へ、これが今年の抱負の言葉です。

 終わりになりましたが、教室が大所帯でありながら順調に運営出来ているのは三人の「個性豊かな」秘書さん、それに浜野さん、橋立さんの献身的な努力や理科大学生さんの協力があってのことです。また、北君、木村君はネットワークの維持とセキュリティ向上を始めラボ共通問題のために努力してくれています。心から感謝します。