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「Nr4a」はTレグの分化と細胞死を制御し、自己を攻撃する細胞が作られてしまうことを防いでいる
- 自己免疫疾患が発症する仕組みの解明 -
2018年8月8日
国立国際医療研究センター
米国科学誌『Cell Reports』掲載
Nr4a receptors regulate development and death of labile Treg precursors to prevent generation of pathogenic self-reactive.
(要旨)
免疫システムは細菌、ウイルス、寄生虫、カビなど様々な病原体から私たちの身体を守っています。この免疫応答の活性化で中心的な役割を担っている細胞の一つが「エフェクターT細胞」と呼ばれる細胞です。しかし、その矛先が病原体でなく、私達の身体を構成する分子や細胞に向けられると、「関節リウマチ」や「I型糖尿病」などに代表される、様々な「自己免疫疾患」が引き起こされてしまいます。一方、免疫システムには、そのような誤った免疫応答を防ぐ「制御性T細胞(Tレグ)」という重要な細胞が存在し、それらの疾患の発症を抑えてくれています。実は、このエフェクターT細胞とTレグは良く似た面を持つ、いわば兄弟どうしのような存在なのですが、Tレグがなぜ、免疫反応を抑制する機能を持ち、自己を攻撃する機能は持たない細胞として生まれてくるかは多くが謎でした。今回、NCGM国立国際医療研究センター 免疫制御研究部 関谷 高史 室長、高木 智 部長、慶應義塾大学医学部 吉村 昭彦 教授らの研究グループの成果として、「Nr4a」という分子が、エフェクターT細胞の分子を抑え、Tレグの正常な分化を助ける一方、出来そこない、攻撃性を持ったTレグには細胞死を誘導することで、自己免疫疾患の発症を防いでいることを明らかにしました。
研究の背景
Tレグと、エフェクターT細胞の元になる「ナイーブT細胞」は、共に「胸腺」という組織で分化します。分化段階のT細胞は、胸腺の細胞からたくさんの自己分子(自分自身の細胞が作る分子)の提示を受けます。そして、それらの自己分子を強く認識した細胞、すなわち、将来自己分子や自己細胞を攻撃してしまう可能性がある細胞には、細胞死が誘導され除去されるか、または、それらの細胞はTレグに分化して、自己分子に対する免疫応答を積極的に抑制します。一方、自己分子を弱めに認識した細胞はナイーブT細胞に分化し、将来病原体分子を認識した際にエフェクターT細胞に分化し機能します。このような、自己分子を認識する強さによりT細胞の運命が決定されるしくみは「中枢性トレランス」と呼ばれ、免疫システムが自己を攻撃することを防ぐ基盤の一つとなっています(下図参照)。この重要なイベントの仕組みを明らかにすることは、自己免疫疾患の発症メカニズムの解明や新規治療薬の開発に繋がると期待されます。研究グループは以前の研究で、Nr4aは中枢性トレランスで重要な役割を担っており、Nr4aの働きを無くしたマウス(Nr4aノックアウトマウス)では、胸腺でTレグは分化せず、マウスは生まれてすぐに重篤な自己免疫疾患を発症して死亡してしまうことを明らかにしていました。しかし一方で、Nr4aがTレグ分化のどの段階で、どのように機能しているか?などの詳しいメカニズムや、Nr4aノックアウトマウスでTレグに分化できなかった細胞はどのような運命をたどるか?など、多くの点が未解明のまま残されていました。
本研究の概要・意義
本研究では、Nr4aノックアウトマウスの胸腺から、未成熟Tレグを取得し解析することで、Nr4aのTレグ分化における役割の詳細な検討を行いました。解析では、Tレグの分化で必須の役割を担っていることが知られている別の分子「Foxp3」のノックアウトマウスの胸腺から取得した未成熟Tレグを比較対象とすることで、Nr4aが直接制御する分子イベントの解明を試みました。その結果、Nr4aは「IL-4」、「IL-21」などの、エフェクターT細胞が免疫応答を活性化する際に用いる「サイトカイン」の発現を、Tレグが分化する段階で抑えていることを明らかにしました。また、Nr4aはFoxp3の発現を促進する一方で、今度は誘導されたFoxp3がNr4aの発現を維持する「正のフィードバック」機構が存在し、不安定な分化段階にあるTレグの成熟を支えていることを明らかとしました。
「研究の背景」で前述したとおり、Tレグは自己分子を強く認識した細胞から分化します。このことは、「出来そこなった」Tレグは生き残ると、自己攻撃性のエフェクターT細胞として機能する可能性があることを示唆しています。本研究では、Foxp3ノックアウト細胞はTレグに分化できない一方で、Nr4aが発現し、細胞死が誘導され、除去されることを示しました。一方でNr4aノックアウト細胞はTレグに分化できないうえに生き残ってしまい、様々な自己分子への攻撃の引き金を引く細胞に転換してしまうことを明らかとしました。
以上の研究により、Nr4aはエフェクターT細胞の分子を抑制しつつ、不安定な分化段階にあるTレグの成熟を促進する一方、出来そこなったTレグに細胞死を誘導することで、自己攻撃性のエフェクターT細胞が産生されることを抑えていることを明らかとしました(下図参照)。この研究成果は免疫が自己を攻撃することを防ぐ基盤のひとつである「中枢性トレランス」の重要な分子機構の一つを明らかにしたと言え、自己免疫疾患の発症メカニズムの解明に大きく寄与すると期待されます。
(図)Tレグは自己分子を強めに認識した細胞から分化します。分化途中のTレグは未成熟で不安定であるため、Nr4aとFoxp3が「正のフィードバック」で支え合うなどして、分化を進めます。Nr4aを失った細胞はTレグに分化できませんが、さらにエフェクターT細胞の機能を獲得して生き残り、自己免疫疾患の引き金を引いてしまいます。
今後の展望
NR4Aは種を問わずヒトでも高度に保存されている分子であるため、本分子に焦点を当てた研究は様々なヒト自己免疫疾患の発症メカニズムの解明に繋がると予測されます。また、NR4Aを標的とした新規治療法の開発も期待されます。
発表雑誌
雑誌名:Cell Reports
論文名:Nr4a receptors regulate development and death of labile Treg precursors to prevent generation of pathogenic self-reactive cells
本件に関するお問合せ先
国立国際医療研究センター研究所 肝炎・免疫センター 免疫制御研究部
責任著者役職名 免疫応答修飾研究室長 関谷 高史(せきや たかし)
電話:047-375-4761(内線 1459) FAX:047-375-4761
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