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臨床検体から分離した新型コロナウイルス・オミクロン株
BA.2.12.1、BA.4、BA.5系統に対する治療薬の効果を検証
2022年7月21日
東京大学医科学研究所
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター
1. 発表者:
河岡 義裕(東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門 特任教授)
国立国際医療研究センター 研究所 国際ウイルス感染症研究センター長)
高下 恵美 (国立感染症研究所 インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター 主任研究官)
2. 発表のポイント :
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬が、オミクロン株BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統(注1)の培養細胞における感染や増殖を阻害するかどうかを解析した。
- 抗体薬(注2)のカシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ、ベブテロビマブは、BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の感染を阻害した。しかし、抗体薬の種類によって阻害効果が大きく異なっていた。
- 抗ウイルス薬(注3)のレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビルは、BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の増殖を効果的に抑制した。
3.発表内容
2021年末から始まった新型コロナウイルス変異株・オミクロン株の流行は、現在も続いています。オミクロン株は、5つの系統(BA.1、BA.2、BA.3、BA.4、BA.5)に分類されます。オミクロン株の流行が始まってから数ヶ月間は、BA.1系統に属する株が世界の主流でしたが、その後BA.2系統への置き換わりが進み、同系統が世界の主流となっています。しかし、7月以降、国内を含む多くの国々でBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが急速に進んでいます。海外では、BA.2系統からBA.4系統あるいはBA.2.12.1系統への置き換わりが進んでいる地域があります。
国内では、カシリビマブ・イムデビマブ、ソトロビマブの抗体薬、あるいはレムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル・リトナビルの抗ウイルス薬がCOVID-19に対する治療薬として承認を受けています。しかし、これらの治療薬がオミクロン株のBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対して有効かどうかについては、明らかにされていませんでした。
東京大学医科学研究所ウイルス感染部門の河岡義裕特任教授らの研究グループは、オミクロン株のBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対する治療薬の効果を調べました。
はじめに、4種類の抗体薬(ソトロビマブ、ベブテロビマブ、カシリビマブ・イムデビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブ)がオミクロン株の各系統の感染を阻害(中和活性;注4)するかどうかを調べました(表1)。BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対するソトロビマブの中和活性は、どの系統に対しても著しく低いことがわかりました。それに対して、カシリビマブ・イムデビマブとチキサゲビマブ・シルガビマブは、BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統いずれに対しても中和活性を維持していることが判明しました。しかし、カシリビマブ・イムデビマブのBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統に対する効果は、従来株(中国武漢由来の株)に対する効果と比較すると著しく低いことがわかりました。チキサゲビマブ・シルガビマブの効果も従来株に対する効果と比較すると低下していました。一方、ベブテロビマブは、BA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統いずれに対しても高い中和活性を示し、その効果は、従来株に対するそれと同等でした。
続いて、3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル)の効果を解析しました。全ての薬剤がBA.2.12.1、BA.4、BA.5の各系統の増殖を効果的に抑制しました(表2)。
本研究を通して得られた成果は、医療現場における適切なCOVID-19治療薬の選択に役立つだけでなく、オミクロン株の各系統のリスク評価など行政機関が今後の新型コロナウイルス感染症対策計画を策定、実施する上で、重要な情報となります。
本研究成果は、2022年7月20日(米国東部夏時間 午後5時)、米国医学雑誌「New England Journal of Medicine (NEJM)」のオンライン速報版で公開されました。
なお、本研究は、東京大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センターが共同で行ったものです。また、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業並びに厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業の一環として行われました。
4.発表雑誌:
- 雑誌名:「New England Journal of Medicine (NEJM) 」(7月20日オンライン版)
- 論文タイトル:Efficacy of Antibodies and Antiviral Drugs against Omicron BA.2.12.1, BA.4, and BA.5 Subvariants
- 著者:
Emi Takashita*, Seiya Yamayoshi*, Viviana Simon, Harm van Bakel, Emilia Mia Sordillo, Andrew Pekosz, Shuetsu Fukushi, Tadaki Suzuki, Ken Maeda, Peter Halfmann, Yuko Sakai-Tagawa, Mutsumi Ito, Shinji Watanabe, Masaki Imai, Hideki Hasegawa, Yoshihiro Kawaoka¶
*:筆頭著者
¶:責任著者 - DOI:10.1056/NEJMc2207519
- URL:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2207519
5.問い合わせ先:
- <研究に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 ウイルス感染部門
特任教授 河岡 義裕(かわおか よしひろ)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/lab/dstngprof/page_00174.html - <報道に関するお問い合わせ>
東京大学医科学研究所 国際学術連携室(広報)
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/
国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
Tel:03-3202-7181
E-mail:press@hosp.ncgm.go.jp
6.添付資料:
表2 新型コロナウイルスのオミクロン株に対する抗ウイルス薬の効果 | |||
ウイルス | ウイルスの増殖を阻害するために必要な薬剤濃度― μM | ||
レムデシビル | モルヌピラビル | ニルマトレルビル | |
武漢型 | 1.7 | 2.8 | 2.7 |
BA.2 | 5.9 | 8.7 | 6.9 |
BA.2.12.1 | 0.5 | 3.2 | 1.8 |
BA.4 | 1.2 | 3.3 | 2.9 |
BA.5 | 2.0 | 4.1 | 4.4 |
7.用語解説:
(注1)オミクロン株BA.2.12.1系統、BA.4系統、BA.5系統: ウイルス感染は、コロナウイルス粒子表面に存在するスパイク蛋白質を介してウイルス粒子が宿主細胞表面の受容体蛋白質に結合することで始まる。実用化されたあるいは開発中のCOVID-19に対する抗体薬は、このスパイク蛋白質を標的としており、その機能を失わせる(中和する)ことを目的としている。BA.2系統は、そのスパイク蛋白質に少なくとも31ヶ所の変異を有する。BA.2.12.1系統のスパイク蛋白質は、BA.2系統が持つ31ヶ所の変異に加えて、2ヶ所の変異を有する。BA.4系統とBA.5系統は、スパイク蛋白質のアミノ酸配列が同一である。BA.4系統とBA.5系統は、BA.2系統と共通する30ヶ所の変異に加えて、4ヶ所の変異を有する。
(注2)抗体薬:
カシリビマブ・イムデビマブ(販売名:ロナプリーブ注射液セット)は令和3年7月19日に特例承認を受けた。ソトロビマブ(販売名:ゼビュディ点滴静注液)は令和3年9月27日に特例承認を受けた。チキサゲビマブ・シルガビマブ(開発コード:AZD7442)は臨床試験中。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000959036.pdfを参照。
米食品医薬品局(FDA)は、ベブテロビマブに緊急使用許可を出している(令和4年2月11日)。
(注3)抗ウイルス薬:
レムデシビル(販売名:ベクルリー点滴静注液)は令和2年5月7日に特例承認を受けた。モルヌピラビル(販売名:ラゲブリオ)は令和3年12月24日に特例承認を受けた。ニルマトレルビル・リトナビル(販売名:パキロビッドパック)は令和4年2月10日に特例承認を受けた。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000959036.pdfを参照。