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非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)患者さんにおける肝細胞がん発生リスク診断法を開発
2022年12月12日
慶應義塾大学医学部
国立国際医療研究センター
北海道大学大学院医学研究院
1. 発表者:
金井弥栄(慶応義塾大学医学部病理学教室 病因病理学分野 教授)
新井恵吏(慶応義塾大学医学部病理学教室 病因病理学分野 准教授)
藏本純子(慶応義塾大学医学部病理学教室 病因病理学分野 専任講師)
考藤達哉(国立国際医療研究センター研究所 肝炎・免疫研究センター長)
武冨紹信(北海道大学 消化器外科学教室 Ⅰ 教授)
2. 発表のポイント :
- 肝組織検体のゲノム網羅的DNAメチル化解析で、正常肝組織に比して、肝がんの発生母地となったNASHの肝組織 (発がんリスク(注3)のあるNASH検体)においてDNAメチル化異常が起こっており、このような前がん段階のDNAメチル化異常がNASH由来肝がんに継承されていることを明らかにしました。
- DNAメチル化率を測定することで、正常な肝組織と“発がんリスクのあるNASH検体”を見分けることが可能な、シトシン塩基を同定しました。さらに、この中から、発がんリスクを見分けるのに有用で、病理組織所見等とは独立して発がんリスクを予測することができる、バイオマーカー候補となるシトシン塩基を選定しました。
- バイオマーカー候補の選定に使用したのとは別の検体で解析して再現性が検証された、ZC3H3遺伝子・LOC285847遺伝子上の3シトシン塩基 (cg18210511, cg09580859, cg13719443)をバイオマーカーとして、臨床検査に強みを発揮すると期待される、独自に開発したHPLC法でのDNAメチル化率の実測に適した、肝がん発生リスク診断法を開発しました。
3. 研究の背景
NASHは、大量飲酒などをしておらず、肝炎ウイルスなどにも感染していないのに、肝臓に脂肪が溜まって炎症が引き起こされ、この状態が長年続くと肝硬変(注4)や肝細胞がんになるという病気です。肥満、糖尿病、脂質異常症などと関連して起こるとされています。近年、ウイルス性肝炎にとってかわって、肝がんの発生要因となっています。早期に肝がんを発見することが治療成績の向上に重要ですが、NASH由来肝硬変の患者さんがさらに肝がんまで進んでしまう頻度は11%程度とされています (参考文献1)。したがって、NASH患者さん全員に、肝がんの診断のための画像の検査などを頻繁に受けていただくことは困難です。NASH患者さんのうち特に肝がんになるリスクの高い患者さんがわかれば、継続して病院に通っていただくようにお願いし、画像診断を行なって肝がんを早期に見つけ、治療成績の向上につなげられると期待されます。早い段階にリスクがわかれば、肝がんにならないよう、NASHの進行を止める治療を行うことも可能と考えられます。
DNAメチル化とは、DNAにおいて遺伝情報を書き込む暗号文を構成しているT・C・G・Aの4文字 (塩基)のうちの、C (シトシン)塩基にメチル基が結合するDNAの飾り (修飾)のことです。DNAに結合するヒストンというタンパク質の修飾と並んで、遺伝子からタンパク質が作られる量を調節する“エピジェネティクス機構”のひとつです。正常細胞ではメチル基が通常結合していないシトシン塩基に、新たにメチル基が結合してしまうようなDNAメチル化異常が起こると、発がんに関係する遺伝子からタンパク質ができる量が変わったり、細胞核中の遺伝情報を担う“ゲノム”が不安定な状態になります。DNAメチル化異常がこうして重要な発がん要因となることに、研究グループは以前から注目していました (参考文献2)。
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