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ナルコレプシーのリスク遺伝子座は、T細胞による自己免疫反応と感染が発症の誘因となることを示唆する

2023年5月15日
国立研究開発法人
国立国際医療研究センター

1. 発表者:

徳永 勝士(国立国際医療研究センター 研究所ゲノム医科学プロジェクト(戸山)プロジェクト長)

嶋多 美穂子(国立国際医療研究センター 研究所ゲノム医科学プロジェクト(戸山)上級研究員)

2.研究の概要

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 研究所ゲノム医科学プロジェクト(戸山)の徳永 勝士 プロジェクト長、嶋多 美穂子 上級研究員らはStanford大学の Emmanuel J. Mignot教授、Hanna M Ollila 博士らと共同で、「ナルコレプシーのリスク遺伝子座は、T細胞による自己免疫反応と感染が発症の誘因となることを示唆する」を英国科学雑誌「Nature Communications」に発表しました。

本研究では、代表的な過眠症であるナルコレプシーについて国際的な共同研究により、本疾患においてこれまでで最大規模の日本人を含む多集団のゲノムワイド関連解析(注1)を実施しました。その結果、ヒト白血球抗原(HLA)やT細胞受容体α鎖をコードする遺伝子(TRA)を含む既知の疾患関連遺伝子の再現性を確認すると共に、新たに7つの疾患関連遺伝子領域の同定に成功しました。
さらにナルコレプシーのサンプルを、発症に関わる要因として示唆されているH1N1インフルエンザワクチン接種後(本邦では使用されていないPandemrix®というワクチン)に発症した症例のみに絞った解析でも同様の遺伝子領域で関連が見られ、Pandemrix®に関連したナルコレプシーとそれ以外の孤発例とでは同様の遺伝要因がシェアされていることがわかりました。さらにフィンランドの研究プロジェクトで収集されたコホートを用いた解析からナルコレプシーと他の自己免疫疾患との関連が示唆されましたが、一方で他の自己免疫疾患ではあまり関連の報告がないT細胞受容体のレパトア(注2)(TRAJ*24、TRAJ*28、TRBV*4-2)の関連も同定されました。

これらのナルコレプシーに関連する遺伝要因より、疾患の発症に自己免疫的機序と、インフルエンザAへの感染やH1N1インフルエンザワクチンであるPandemrix®などの環境的要因が誘発する免疫異常の双方が関わっている可能性が示唆され、今後のより詳細な発症機序の解明と疾患の発症予防につながることが期待されます。


3.補足説明

注1)ゲノムワイド関連解析:ヒトゲノム中の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)をマーカーとして、患者群と健常者群間で頻度が異なるSNPをゲノム全域で網羅的に解析する手法。マイクロアレイを用いることによりヒトゲノム全域にわたるSNPの遺伝子型を決定する。

注2)T細胞受容体のレパトア:主要なリンパ球であるT細胞は細胞表面に抗原を認識するT細胞受容体を発現している。この受容体は多様な抗原に対して反応できるように遺伝子再構成や突然変異により多様性を獲得しており、そのコレクションのことをレパトアという。



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