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細胞外アミノアシルtRNA合成酵素は関節リウマチにおいてサイトカインおよびPAD4を放出させることで、自己免疫応答や炎症応答を引き起こす
2023年7月3日
国立国際医療研究センター
1. 発表者:
鈴木 春巳(国立国際医療研究センター研究所 肝炎・免疫研究センター 免疫病理研究部長)
2. 要旨:
関節リウマチ(Rheumatoid arthritis; RA)は関節に炎症が起こることによって、痛みや腫れが生じる自己免疫疾患の一つです。これまでに、いくつかの抗リウマチ薬が開発されてきましたが、ブシラミン(商品名:リマチル;あゆみ製薬)は日本で開発された抗リウマチ薬として知られています。しかしながらブシラミンの作用機序についてはほとんど解明されていませんでした。
鈴木部長および木村室長らの研究グループは、東京医科大学の半田宏教授らのグループとの共同研究により、アミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetases; aaRSs)(注1)がブシラミンの標的タンパクであることを発見しました。RAとaaRSsの関連性について研究を進めたところ、RA患者において血清や滑膜液中にaaRSsが放出されていることを発見し、さらに細胞外aaRSsがアラーミン(注2)として機能することで、マクロファージや樹状細胞からサイトカイン(注3)やProtein Arginine Deiminase 4 (PAD4) (注4)を放出させていることを明らかにしました。また、ブシラミンはaaRSsによるサイトカイン産生誘導を阻害することも明らかとなり、ブシラミンは細胞外に放出されたaaRSsと結合し、アラーミンとしての機能を阻害することで、抗リウマチ薬の機能を発揮している可能性が示唆されました。さらに、アラーミンとしてのaaRSsの機能を抑制する阻害ペプチドの開発にも成功しており、この阻害ペプチドが関節リウマチのマウスモデルにおいて治療効果があることが示されました。今回の研究成果により、aaRSsが細胞外に放出されアラーミンとして機能することで、RAの発症や病態の悪化に大きく関与していることが示されたことから、RAに対してaaRSsを標的とした画期的な新規治療法の確立が期待されます。
3. 用語解説:
(注1)アミノアシルtRNA合成酵素:
タンパク合成の過程において重要な酵素で、特定のアミノ酸をtRNAに結合させることでアミノアシルtRNAを合成する。原核生物から真核生物まですべての生物において保存されており、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸それぞれに対応する20種類のアミノアシルtRNA合成酵素が存在する
(注2)アラーミン:
組織障害や細胞死によって細胞外に放出され炎症を誘導する分子の総称である。HMGB1 (high mobility group box 1)やHSP (heat shock protein)をはじめとし、IL-1やIL-33といったサイトカインもアラーミンとして知られている。
(注3)サイトカイン:
免疫細胞をはじめとしたさまざまな細胞から分泌される低分子タンパク質で、細胞間情報伝達分子としてはたらく。IL-6やTNF-aは炎症を惹起する炎症性サイトカインとして知られており、免疫細胞の活性化や分化において重要な役割を担っている。
(注4)Protein Arginine Deiminase 4 (PAD4):
タンパク質内のアルギニン残基をシトルリン残基に変換する酵素で、全部で5種類のPADが存在する(PAD1, 2, 3, 4, 6)。中でもPAD4はRAの発症や病態悪化に深く関与している。本来、PAD4は核内に存在しており、ヒストンのシトルリン化に関与しているが、PAD4が細胞外に放出されると細胞外のタンパク質をシトルリン化させることで関節リウマチの発症や増悪化に関与する。
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