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神経系組織マクロファージが産生する脂質メディエーターPAFが神経障害性疼痛の発症・維持に関わる
2024年4月2日
国立国際医療研究センター
1. 発表者
山本将大(国立国際医療研究センター 研究所 脂質生命科学研究部 学振特別研究員PD)
進藤英雄(国立国際医療研究センター 研究所 脂質生命科学研究部 テニュアトラック部長)
2. 発表のポイント
マウスモデルを用いて、難治性疼痛のひとつである神経障害性疼痛にマクロファージ*1やミクログリアが産生するリン脂質メディエーターPAF(Platelet-Activating Factor)*2が関わることを明らかにしました。
本研究成果は科学雑誌「iScience」オンライン版(2024年4月1日付:日本時間4月2日)に掲載されました。
- 神経系組織の損傷によって病態形成される神経障害性疼痛は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)*3や麻薬性鎮痛薬モルヒネでさえも奏功しない難治性の慢性疼痛ですが、未だ有効な治療薬は開発されておらず、革新的な創薬標的の発見が望まれています。
- 我々は以前に、リン脂質型の炎症性メディエーターであるPAF(platelet-activating factor)の産生酵素LPLAT9(別名:LPCAT2)の欠損マウスでは、末梢神経損傷によって生じる難治性疼痛が軽減することを見出しました(Shindou H et al. FASEB J. 2017;31(7):2973-2980.)。しかし、神経損傷によってPAFが増加するのか?神経系組織を構成するどの細胞種が産生するのか?など、不明な点が複数ありました。
- 今回我々は、末梢神経系である後根神経節と中枢神経系である脊髄組織を用いてリピドミクス*4を実施し、神経損傷後に両組織で共通して一過性のPAF量の増加が起こることを突き止めました。また、神経障害性疼痛の発症に関わるPAF産生細胞はマクロファージやミクログリアであることを明らかにしました。PAFはPAF受容体を活性化します。PAF受容体拮抗薬の脊髄腔内投与によって疼痛が軽減することもわかりました。我々の研究成果は、難治性疼痛病態において脂質が担う役割に新たな知見をもたらしたと考えられます。
3.用語解説
*1 マクロファージおよびミクログリア:全身の組織(マクロファージ)や脳・脊髄などの中枢神経系(ミクログリア)に存在する免疫細胞の一種。さまざまな刺激に応答して炎症反応などの生理機能を発揮します。
*2 PAF:リン脂質型の生理活性脂質であり、PAF受容体に作用することで炎症応答や免疫応答に関わることが知られています。
*3 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):non-steroidal anti-inflammatory drugの略で疼痛や発熱に関与するプロスタグラジンの合成を阻害する薬剤で、アスピリンやロキソニンなどがあります。
*4 リピドミクス:脂質成分の定性や定量分析を網羅的に行う分析技術。
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