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結核菌ゲノムの遺伝的多様性の包括的解析と病原性との関連

国立大学法人 東京大学
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

1. 発表者

徳永 勝士(国立国際医療研究センター 研究所 ゲノム医科学プロジェクト長)

2. 研究成果のポイント

結核菌ゲノムの遺伝的多様性の包括的解析と病原性との関連

結核菌のゲノム解析

概要

 東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻人類遺伝学分野のWittawin Worakitchanon 博士課程学生(当時)、藤本明洋教授らは、結核予防会複十字病院の野内英樹博士、国立感染症研究所の宮原麗子博士、国立国際医療研究センターの徳永勝士プロジェクト長、マヒドン大学のPrasit Palittapongarnpim 教授、タイ保健省のSurakameth Mahasirimongkol 博士らと共同で、結核菌1,960 株の全ゲノムシークエンスデータ*1)を解析し、挿入・欠失および一塩基多様体(SNV)の包括的解析を行い、病原性や薬剤耐性に関連する新たな遺伝子を検出しました。

 結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)によって引き起こされる世界的に重要な感染症です。しかし、結核菌の遺伝的多様性*2)の包括的解析は行われていませんでした。この研究では、結核菌1,960株の全ゲノムシークエンスデータを解析し、挿入・欠失および一塩基多様体(SNV)の包括的解析を行いました。その結果、機能喪失変異は細菌の生存に必須な遺伝子に有意に少ないことが分かりました。また、集団遺伝学的な解析により、結核菌のゲノムには弱有害変異が多いことが示唆されました。さらに、病原性に関連する多型を探索したところ、eccB2 遺伝子の欠失が患者の予後と有意に関連していました。薬剤耐性に関連する23個の新規遺伝子も検出されました。これらの結果、機能変化が結核菌の病原性に関係する遺伝子についての知見が得られました。結核菌の病原性、薬剤耐性のメカニズムの理解が深まり新たな治療標的分子の発見につながると考えられます。

用語解説

*1) 解析したサンプル:野内英樹博士(複十字病院)、Surakameth Mahasirimongkol博士(タイ保健省)らが中心となり、約30年前からタイ国チェンライ県において結核菌ゲノムや結核患者のゲノム、臨床情報の収集と研究開発が行われている。また、2014年より2019年まで徳永勝士プロジェクト長(国立国際医療研究センター;当時は東京大学大学院医学系研究科教授)が代表として実施した国際共同研究(SATREPS)によって結核菌の全ゲノム解析が開始された。本研究では、このシークエンスデータに長鎖シークエンスデータも加え、新たな解析方法を開発して詳細に解析した。

*2) 遺伝的多様性:同一種内の個体間のゲノム配列の違いのこと。遺伝的多様性には、一塩基多様体(SNV)、挿入・欠失などの幾つかのタイプに分類される。SNVは一塩基の違いであり、タンパク質のアミノ酸の違いを生じるSNVを非同義SNVとよぶ。挿入・欠失は塩基配列の長さの違いであり様々な長さの挿入・欠失が存在している。このうち、長めの(50塩基対以上)の挿入・欠失の検出は難しく正確な検出法は確立していない。本研究では、SNV、短い挿入・欠失、長い挿入・欠失を検出し包括的解析を行なった。なお、遺伝的多様性のうち、集団内の頻度が1%以上のものを多型とよぶ。

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