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新たなヒト血液型「KANNO」の国際認定
~国立国際医療研究センターなど、日本の研究グループとして初めての登録~

2019年8月5日

国立国際医療研究センター
日本赤十字社
福島県立医科大学
日本医療研究開発機構

国立国際医療研究センター・ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長、大前陽輔特任研究員らの研究グループは、ヒトゲノム解析により、これまでに国際輸血学会に登録されている36種類の血液型に加え、37種類目の新たな血液型「KANNO(カノ)」を特定し、この度国際輸血学会の血液型命名委員会から認定を受けました。これは日本の研究グループが特定した初めての血液型です。この新たな血液型「KANNO」を決める血液型抗原はプリオンタンパク質というクロイツフェルト・ヤコブ病の原因となる分子であり、今回特定された血液型を決める変異はプリオン病抵抗性との関連も注目されます。

私たちの血液には非常に多くの血液型があります。なかでも、ABO血液型とRh血液型は輸血をするうえで極めて重要な血液型であることはよく知られています。安全で有効な移植や輸血のためには、その他の血液型も一致することが重要で、これまでに36種類の血液型が国際輸血学会によって公認されていました※1

今回、国立国際医療研究センター、日本赤十字社、福島県立医科大学の共同研究チームは、日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(先端ゲノム研究開発)による支援のもと、KANNO抗原という、既知の血液型と一致しない血液を持つ人の全ゲノム解析を行うことによって、その血液型抗原とその変異を同定し、KANNOが新たな37番目の血液型であることを明らかにしました。これは日本の研究グループが原因を特定した初めての血液型であり、この度国際輸血学会から血液型「KANNO」として認定を受けました。その抗原は意外にもプリオンタンパク質でした。これはクロイツフェルト・ヤコブ病などのプリオン病の原因ともなる分子で、KANNO(–)(マイナス)型ではこのタンパクの一つのアミノ酸が変化しています。

詳細資料


背景

私たちの血液には非常に多くの血液型があります。なかでも、ABO血液型とRh血液型は輸血をするうえで極めて重要な血液型となることはよく知られています。それだけでなく、安全な移植や輸血のためにはその他の血液型も一致することが重要で、これまでに36種類の血液型が登録されていました。血液型が不一致な場合には(自己に存在しない抗原に対する)免疫応答が起こり、抗体が作られてしまうことから、輸血や妊娠の成立に影響が出ることもあります。しかし、これまでの血液型では説明できない輸血不適合性を示す血液も存在し、その原因遺伝子はわかっていません。

1991年に福島県立医科大学附属病院で採られた血液が、既知の血液型とは異なる輸血不適合性を示し、暫定的にKANNO 抗原を持たない血液としてKANNO(–)型と命名されました。その後、同型による輸血不適合性は日本国内で十数例報告されましたが、この血液型を作るKANNO 抗原の本体については不明のままでした。これらの方以外はKANNO 抗原を持ち、KANNO(+)型とよびます。


研究手法と成果

国立国際医療研究センター、日本赤十字社、福島県立医科大学の共同研究チームは、日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(先端ゲノム研究開発)による支援のもと、ゲノムワイド関連解析※2とエクソームシークエンス解析※3という先端的なゲノム解析を行い、KANNO抗原を担う遺伝子を同定することを目指しました。その結果、調べたKANNO(–)型の18名全員が、プリオンタンパク質の219番目のアミノ酸が、グルタミン酸(E)からリシン(K)に変化する遺伝子変異(E219K)を、2本の染色体両方(ホモ接合)で持つことを見出しました。さらに培養細胞でそれぞれの遺伝子を発現させると、KANNO(+)型プリオンに対してのみ抗KANNO血清(抗体)が結合しました(図、赤がプリオン発現細胞に結合したKANNO型抗体)。すなわち、KANNO(–)型ではプリオンにE219Kの変異があり、グルタミン酸型プリオンに対する抗体を持つことが確認され、KANNOが新たな血液型抗原であることを確定できました。これは日本の研究グループが原因を特定した初めての血液型であり、この度国際輸血学会血液型命名委員会からの承認を受けました。

図、赤がプリオン発現細胞に結合したKANNO型抗体

今後の期待

今回、新たな血液型抗原として同定されたプリオンタンパク質は、ヒトでのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などのプリオン病の原因分子としてよく知られています。今回同定したE219Kの遺伝子変異は日本人以外のアジア人集団でも5%程度の割合で存在し、数百人に1人がホモ接合で有することから、アジア人において移植や輸血のために重要なことが明らかとなりました。興味深いことに、この変異を1つの染色体に持つ場合(ヘテロ接合)にはCJDに強い抵抗性をもつことが知られており、この血液型とプリオン病との関連も注目されます。

さらに、今回の解析手法を用いて、既知の血液型と一致しない他の患者に適用することにより、新しい血液型が同定されていくことも期待されます。

参考論文情報


補足説明

  1. これまでに公認された血液型一覧:
    国際輸血学会Table_of_blood_group_systems_v6_180621より改変

    No. 血液型名 (System name) 遺伝子名 (gene name(s)) 染色体領域
    001 ABO ABO 9q34.2
    002 MNS GYPA, GYPB, (GYPE) 4q31.21
    003 P1PK A4GALT 22q13.2
    004 Rh RHD, RHCE 1p36.11
    005 Lutheran BCAM 19q13.2
    006 Kell KEL 7q33
    007 Lewis FUT3 19p13.3
    008 Duffy ACKR1 1q21-q22
    009 Kidd SLC14A1 18q11-q12
    010 Diego SLC4A1 17q21.31
    011 Yt ACHE 7q22
    012 Xg XG, MIC2 Xp22.32
    013 Scianna ERMAP 1p34.2
    014 Dombrock ART4 12p13-p12
    015 Colton AQP1 7p14
    016 Landsteiner-Wiener ICAM4 19p13.2
    017 Chido/Rodgers C4A, C4B 6p21.3
    018 H FUT1 19q13.33
    019 Kx XK Xp21.1
    020 Gerbich GYPC 2q14-q21
    021 Cromer CD55 1q32
    022 Knops CR1 1q32.2
    023 Indian CD44 11p13
    024 Ok BSG 19p13.3
    025 Raph CD151 11p15.5
    026 John Milton Hagen SEMA7A 15q22.3-q23
    027 I GCNT2 6p24.2
    028 Globoside B3GALNT1 3q25
    029 Gill AQP3 9p13
    030 Rh-associated glycoprotein RHAG 6p12.3
    031 FORS GBGT1 9q34.13-q34.3
    032 JR ABCG2 4q22.1
    033 LAN ABCB6 2q36
    034 Vel SMIM1 1p36.32
    035 CD59 CD59 11p13
    036 Augustine SLC29A1 6p21.1
    037 KANNO PRNP 20p13
  2. ゲノムワイド関連解析:
    ヒトゲノム中の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)をマーカーとして、患者群と健常者群間で頻度が異なるSNPをゲノム全域で網羅的に解析する手法。マイクロアレイを用いることによりヒトゲノム全域にわたるSNPの遺伝子型を決定する。
  3. エクソームシークエンス解析:
    ヒトゲノム中のタンパク質をコードする遺伝子領域を次世代シーケンサーにより網羅的に解析する手法。

発表者・機関窓口

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:西澤 樹生(にしざわ たつき)
電話:03-3202-7181(代表) <9:00~17:00>
E-mail:press@hosp.ncgm.go.jp

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