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アジアにおけるゲノム医学研究の基盤となる全ゲノム変異情報の作成
-64カ国200以上の集団における全ゲノム塩基配列の解析-

2019年12月5日

国立国際医療研究センター
日本医療研究開発機構

国立国際医療研究センター・ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士プロジェクト長、コー・セクスーン特任研究員らが参加するアジア64カ国の協力による国際共同研究グループGenomeAsia100K Consortium※1は、アジアのさまざまな人類集団のゲノム試料について、1,739人分の全ゲノム塩基配列の解析を行った成果を発表いたしました。今後、我が国を含むアジア各国で更なる全ゲノム解析による研究の進展が見込まれる中、今回の成果はアジアにおける今後のゲノム医学研究の発展のための基盤情報となることが期待されます。
本研究の一部は、日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業(先端ゲノム研究開発)の支援により行われ、国際科学誌「Nature」に2019年12月5日(木)午前3時(日本時間)に掲載されます。

成果の概要

疾患の遺伝学的な研究を世界各地で効率的に実施するために、ヨーロッパ系以外の人類集団の研究が望まれています。そのためには、ヨーロッパ系以外のそれぞれの地域集団におけるゲノム全域の変異の参照データ※2が必須であり、それぞれの研究において実施された全ゲノム塩基配列解析による各集団の参照データが整備されることで、疾患関連研究が可能となります。すなわち、集団に適したSNPアレイ※3を用いたゲノムワイド関連解析※4によって疾患関連の遺伝子の特定を効率的に行うことができるようになります。本国際共同研究では、最終的には10万人のアジア人の全ゲノム塩基配列解析を目指しています。今回その第一段階として、アジアの64カ国に居住する200以上の集団から1,739人のゲノム試料を得て、全ゲノム塩基配列の解析を実施し、ゲノム変異の参照データを作成しました。得られたデータは疾患遺伝子の探索研究を促進するのみならず、集団の遺伝的な構造や歴史の解明、各変異の医学的な意義の理解に貢献し、また希少疾患の原因となる遺伝子変異の特定にも役立ちます。今後、GenomeAsia100K Consortiumのホームページ(https://browser.genomeasia100k.org/)、およびEuropean Genome Archive※5のホームページ(https://www.ebi.ac.uk/ega/home)(accession number EGAS00001002921)にて公開予定です。

本研究で得られたデータについて、集団遺伝学※6的な方法を用いて人類の進化上最近に起こった自然淘汰の検出や、集団の構造と歴史の推定も行いました。図1はアフリカやヨーロッパの代表的な集団のデータも含めて解析した結果ですが、インド人、マレーシア人、インドネシア人は複数の先祖集団を持つことなどが分かります。図2はアジア北部の諸集団の遺伝的関係を分析した結果ですが、日本人を含む東北アジアのグループと、極北の諸集団から北米先住民につながるグループに大別されることなどが分かります。この他にも例えば、インド、マレーシア、フィリピンに居住するネグリトと呼ばれる集団はそれぞれの近隣の集団と遺伝的に近縁であることから、彼らに共通して見られる特徴は環境への適応の結果として獲得されたものであると推定されました。また、アジアにおける先行人類として知られるデニソバ人の遺伝的特徴が、特にメラネシア人などに強く残されていることも確認されました。

図1 アジア系諸集団、アフリカ人、ヨーロッパ人の遺伝的構成の分析結果
アジアにおけるゲノム医学研究の基盤となる全ゲノム変異情報の作成_fig1
東南アジアの集団(赤枠)は複数の先祖集団とそれらの混血集団から構成される一方、東北アジアの集団は比較的多様性が小さい(上図では12の先祖集団を仮定、下図では14の先祖集団を仮定、色のバリエーションが多いほど複数の先祖集団から構成されることを表す)。

 

図2 東北アジア諸集団の遺伝的近縁関係

アジアにおけるゲノム医学研究の基盤となる全ゲノム変異情報の作成_fig2
東北アジアの集団(オレンジ枠)が互いに近接してクラスターを形成し、極北アジア集団と北米の先住民族(青枠)がゆるやかなクラスターを形成する。

一方、本研究で検出されたゲノム変異のうちタンパクのアミノ酸配列を変える変異に注目すると、23%は公的データベースに登録されていない新たな変異であり、0.1%以上の頻度で検出された変異はおよそ19万5千個にもなりました。これらはアジアの特定の集団では比較的高い頻度で存在すると考えられ、今後その医学的な意義の解明が期待されます。また、遺伝病の原因となる変異として公的データベースに登録されている変異の中には、ヨーロッパ系集団ではまれにも関わらず、アジア系集団では高頻度である例が見出され、これらは実際には遺伝病とは無関係であると考えられました。さらに、図3のように、各種の薬剤による副作用に関与することが報告されている遺伝子変異の分布も調べられ、アジア諸集団の中でも顕著な集団差があることが明らかになるなど、多くの興味深い情報が得られています。GenomeAsia100K Consortiumは今後、より大規模なアジア集団の全ゲノム解析の研究を行い、ゲノム医学研究の推進に貢献することを目指しています。

図3 8種の薬剤についてゲノム変異データから予測された各集団における副作用の頻度

アジアにおけるゲノム医学研究の基盤となる全ゲノム変異情報の作成_fig3

各国、各地域での副作用の頻度を表している。赤色に近づくほど当該薬剤で予想される副作用の頻度が高い。


用語解説

  1. GenomeAsia100K Consortium:
    アジア各地域の健常者および患者を合わせて10万人全ゲノム解析することを目指す国際共同研究グループ。(http://www.genomeasia100k.com/
  2. 参照データ:
    それぞれの人類集団において、基準となる代表的なゲノム配列や変異のデータ。
  3. SNPアレイ:
    ヒトゲノム中の多数の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)を同時並列的に解析するための装置。
  4. ゲノムワイド関連解析:
    ヒトゲノム中の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)をマーカーとして、患者群と健常者群間で頻度が異なるSNPをゲノム全域で網羅的に解析する手法。マイクロアレイを用いることによりヒトゲノム全域にわたるSNPの遺伝子型を決定する。
  5. European Genome-phenome Archive(EGA):
    ヨーロッパで構築されている公的データベース。ヒトゲノム配列および変異と疾患などとの関連についてのデータを格納している。
    https://www.ebi.ac.uk/ega/home
  6. 集団遺伝学:
    生物集団中の遺伝的多様性の構成や頻度の変化を研究する遺伝学の一分野。

発表論文

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取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:西澤 樹生(にしざわ たつき)
電話:03-3202-7181(代表) <9:00~17:00>
E-mail:press@hosp.ncgm.go.jp

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